第8回
介護現場歴20年!? 人気お笑い芸人であり、介護福祉士でもある
「メイプル超合金」安藤なつさんとの夢の対談!
(聞き手:鈴木健三)
2023年、介護福祉士の資格を取得した安藤なつさん。
介護の“広報”をしたいと、取材を受けてくださいました。介護の知見が次々と出た、実りのある対談をどうぞ!
〇対談相手
安藤なつ さん
お笑い芸人。「メイプル超合金」のツッコミ担当。バラエティを中心に女優としても活躍。介護職に携わっていた年数はボランティアを含めると約20年。2023年に介護福祉士を取得。
まさかのプロレスつながり。
「どすこいロリータ 優香.」というリング名で活躍
理事長(以下、左) 実はプロレスラーとしても活動されていたんですよね? 千歳会は、毎年プロレスラーを呼んで施設にリングをつくって、お客様とご家族、地域の方と一緒にプロレス観戦をしているんですよ。
安藤なつさん(以下、安)楽しんでますねえ。ええ、わたしはお笑いプロレスの「西口プロレス」で、実際にリングに上ってました。ゴスロリを“ドスロリ”にして。(千歳会のプロレスイベントのチラシを見て)ん? 左さんも出てる?
左 そうなんですよ。社会福祉法人の理事長で、ブレーンバスター(プロレス技)を受けてるのってきっと僕だけだと思います(笑)。
安 たしかに。……って、これなんの対談でしたっけ?(笑)
左 そうでした。芸人としてご活躍されていて、介護の現場経験もある安藤なつさん。介護との出会いはいつだったんですか?
安 小学校1年生のときに、母方の叔父の家に遊びに行ったのがきっかけです。そこには障がいのある子や認知症のおばあちゃんたちがいて、今思えば、叔父が自宅を改装してつくった小規模の福祉施設だったと思います。そこで一緒におやつを食べたり、手伝いをするのが楽しくって。夏休みや年末年始は、決まって叔父のところで過ごしていました。
左 幼少期の体験があるんですね。なつさんの言う「楽しい」は、どんなところに感じましたか?
安 手伝いのなかで、それまでの自分にできなかったことができるようになるのが嬉しかったんです。「ゲームをひとつずつクリアしていく」感じですかね。レベルが上っていくみたいに。
左 なるほど。そこから実際に介護のお仕事をされて、2023年には介護福祉士の国家試験もパスしていますよね。資格をとった経緯も教えてください。
安 2015年のM-1出場を機に仕事が増えて、2022年頃から、徐々に個人で介護についてのお話をさせていただく機会も増えました。介護業界の“広報”の役割ができたらと思っていたので、もうすこし介護の知識をつけておきたいなと考えていたところでした。そこに、たまたま喀痰吸引※の取材をした事業所さんに「介護福祉士実務者研修をやっているので受けてみませんか?」と誘ってもらって。すぐ申し込みました。
左 そして見事、試験に合格! 我々にとって、とても明るいニュースでした。
※喀痰吸引……吸引装置を使用し口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部の痰を吸引すること。医療行為に該当するが、社会福祉士及び介護福祉法に基づき、条件を満たせば介護福祉士または一定の研修を受けた介護職員なども行うことができる。
相手の世界に入っていく。何役も演じ分ける面白さ
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左 介護の魅力はどういったところに感じますか?
安 自分よりもはるかに人生経験を積んだ高齢の方々から、学ぶことも多いです。なにより、面白い。
左 ほう! 面白いとは?
安 たとえば、「アメリカのスパイだった」って言うおじいちゃんがいました。銃にやたら詳しくていろいろ教えてもらいました。「……スパイであることバラしちゃだめなんじゃないの?」ってツッコミを入れてましたね。
左 あはは! なるほど。相手の見ている世界に入っていく経験、僕にもあります。介護施設でボランティアに入ったときに、認知症のおばあちゃんが突然「うちの子どこいったの?」って探し出したんです。当時はこの業界に入りたてで僕は驚いてしまったんだけど、職員さんは違った。一緒におばあちゃんの子どもを探したんですよね。そうしているうちに、おばあちゃんも落ち着いてきて。ああ、この場を楽しめばいいんだって、そのとき感じたんです。
安 そうそう。わたしは叔父の施設で夜間のおむつ交換に入ったときに、寝ていたおばあちゃんを起こしてしまって「……バ、バケモノ〜!!」って叫ばれたんですよ。冷静に考えれば、真っ暗な中でこんな大きな身体のシルエットを見たら誰でも驚くよな、と思って。だから、おばあちゃんにのっかることにしました。「そうなんです。わたしバケモノなんですよ」って。「おむつ交換の練習をしてきたバケモノなんで、“おしも”だけ取り替えさせてもらってもいいスか〜?」って。そうしたら取り替えさせてもらえて。
左 すごい(笑)。相手に合わせて、スパイの共犯者になったり、バケモノになったりするんだ。
安 何役も演じ分けることのできる介護の仕事、面白いんですよね。
介護は魅力的な仕事。働く人を増やしたい
左 介護業界の“広報”をしたいと言っておられましたが、どんなことをやっていきたいですか?
安 働く人を増やしたいです。お伝えしたように、一人ひとり違った物語があるんですよね。働く人たちが「この物語や状況を楽しめる」までもっていきたい。今、介護業界の離職の問題って、一人ひとり利用者さんとの話ではなく、問題のほうにフォーカスされていて、辛くなっちゃうんじゃないかと思うんです。「介護は大変」っていう世の中の見え方にひっぱられちゃうというか。もちろん、きれいごとだけではない世界です。が、「楽しめる」までいかないまま、やめちゃうのはもったいない。まず、一人ひとりの受け止め方やスルースキルを身につける。そうやって、実際に面白かったことを介護する側で共有して、いろんな視点から見る力がつけられれば、「楽しめる」までいけるんじゃないかと。
左 千歳会も、技術・学術発表会「C1グランプリ」を年に一度開催していて、これまで培ってきたケアの質を向上するための技術を共有する機会をつくっているんですね。あと、法人マガジン『アスサキ』の中で、私が実際にケアを受ける「理事長チャレンジ」もやっているんです。2つに共通して感じたのは「ここまで考えてるんだ!」っていう驚き。ケアの技がしっかりと受け継がれる機会にしたいと続けています。
安 素晴らしいですね! やっぱり、職場のチームワークってすごく大切だと思います。職員同士の申し送りやコミュニケーションを重視することで、ケアの足並みをそろえて、よりよくすることができるんじゃないかしら。
介護とお笑いに共通するスキル
左 将来、介護業界でやってみたいことってありますか?
安 自分が施設をつくったら……って考えるんですよね。わたしは音楽が好きなので、音楽の好みで生活の場を選べるようにしたい。たとえば、メタル、J-POP、テクノ、クラシック……ってジャンルで分かれた棟があったりして。音楽は刺激になると聞いたことがあるので、歌ったり踊ったりできたら楽しいなって。もちろん、静かな棟もあります。
左 斬新なアイデアだなあ! 長く介護の仕事をしていて、お笑いの仕事に役立ったなとか共通する部分はありますか?
安 そうですねえ。人の表情をよく見るようになったかな。トーク番組の収録では、誰がどのタイミングで何を話すかがだいたい決まっているんですけど、それを脱線した時に、「今この人何か言おうとしているな」とか「ネタとして喋れるんだろうな」っていうのがわかるというか。そういう場合は、全体の話の流れを止めないようにしています。芸人は介護に向いてると思うんですよね。空気を読む力があるから。
左 それこそ、我々介護職もお笑いを見て勉強できるって話ですよね。間のとり方とか、話の流れとか。
安 そうですね。それだと、ライブがいいかもしれません。コンビのネタも面白いんですけど、オープニングやエンディングでみんなが集まってトークしたり、企画モノをするときに、間合いや立ちまわりに注目すると面白いかもしれませんね。
左 介護とお笑いがつながった……! 多くの学びにつながりました。なつさんとは、またご一緒させていただきたいですね。職員研修や採用のためのイベントとか。介護をここまで語れるプロの芸人さんとお話できて、大変光栄でした。
安 わたしも、介護関連で取材を受けるのはとっても嬉しいことです。介護の“広報”として今後もできることをやっていきたいです。
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今回対談いただいた安藤なつさんの著書
『介護現場歴20年。』については
こちらをご覧ください★
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