理事長対談 ~東洋大学 福祉社会デザイン学部 洪 心璐先生~

 

外国人人材と、日本の介護の未来とは……?

今回は東洋大学 助教・洪心璐さんとの対談!

 

 

中国にルーツをもち、日本の介護に魅せられて来日した洪先生。

千歳会で活躍する外国人人材や、海外と日本の介護について、聞きました。

 

 

〇対談相手

洪 心璐さん

中国福建省出身。東洋大学 福祉社会デザイン学部社会福祉学科助教。

大学2年時に修学旅行で見学した日本のぬくもりある介護現場に刺激を受け、2012年に来日。

 

 

 

介護を学んで気づいた

“本当のソーシャルワーカー”とは?

                              

 

 

理事長(以下、左) 洪先生が日本に来て、福祉を勉強するきっかけは?

 

洪心璐先生(以下、洪) 中国の大学で高齢者福祉を専攻していました。2年生の時、修学旅行で日本に来まして、そこでカルチャーショックを受けたんです。

 

 ほう。

 

 10数年前の中国は当時、老人ホームは医療モデルというか、施設の中は消毒液の匂いのイメージがあったんですね。一方で日本の特養の中に入ると、ご飯の炊き上がった、美味しい香りが広がっていたんです。「え、何これ」と思いましたね。これまで自分がしている福祉と、外の福祉はこんなにも違うんだということを知って、この衝撃や感動を伝えたいと思って、日本に来て勉強することにしたんです。

 

 嬉しい話だな……。とはいえ、現在の中国の福祉も進化していますよね。

 

 そうですね。当時は整っていなかった介護保険制度が導入されつつあります。たとえば、上海では2017年に市内3つの区(金山区・徐匯区・普陀区)からスタートし、2018年からは全市で実験的に導入されています。

 

 先日、中国からも視察団の方がいらして、日本の医療福祉についての意見交換をしたんです。人口の規模からいっても、日本の100床が中国の3000〜4000床に匹敵するらしいんですね。それに対応するためにも、とにかく多くの中国人実習生や技能生に介護現場で学んでもらって、自国に帰ってから即戦力として働けるようにという話が出ていたんですけど。

 

 中国でも人手不足は深刻な問題ですからね。

 

 それだと時間がかかっちゃうじゃないですか。だから、日本でいま頑張っている管理者たちを中国に行かれてくれって言ったんですよ。そうすると、入った瞬間から中国の方たちへの教育もできる。僕は、メイド・イン・ジャパンのサービスは、輸出できると思ってるんです。

 

 たしかにそうですね! いま私が教えている学生たちにも、ただ現場をまわすだけでなく、感じた課題に対してアクションを起こすようにと伝えています。情報発信もそうですし、自分の強みを活かして社会全体にインパクトを与えてほしいなと思っています。

 

 僕は介護経験ゼロからこの業界に入ったんですが、そこから20年、現場で学んできました。施設長研修に1年かけて通ったときに、目からウロコが落ちたんです。分厚い教科書もらって、マネージメントに心理学、コミュニケーション技術やチームビルディングなどを勉強しました。あらゆることを学んだ結果が介護職なんだって気づいたんですよね。

それまでは、お客さんの要望を叶え、その人らしい生き方の延長戦に僕たちがいればいいと思ってたんです。でもそんなことは当たり前だった。ソーシャルワーカーとは、専門職であり、ジェネラリストでスペシャリストであるんですよね。

 

 国家資格である介護福祉士の勉強は、たくさん学ぶべきことがありますよね。さらに、海外から来ている人たちは日本語を学ぶ必要もあります……。

 

 そうなんです! そういう意味でも、海外の子たちのモチベーションってすごく高いですよね。日本で勉強したことを自国に持ち帰るぞという意識があるし、情熱を感じますね。日本人も負けてられないぞ! という気持ちにさせてくれる。

 

 おっしゃる通りですね。ビザの制度が変わるなかで、いつまで日本にいられるだろうという気持ちがある人も少なくないと思います。彼らは日本に来ると決断した時点で、やりたいことがはっきりしている。たとえば日本にいられる5年間で介護現場から何を吸収するか、を本気で向き合っている子たちが頑張っています。

 

 

 

 

人手不足だから入りたいっていう人はいない

                              

 

 

 洪先生の教え子のように、大学でしっかり勉強して介護福祉士の資格をとって、現場で働く人たちの能力はすごい。このことがわかったと同時に、反省もしました。会社や法人は、ただ介護職がほしくて学生を採用していた。これまでは、その能力と採用がミスマッチになっていたと思うんですよね。やっぱり、勉強をしてきている子たちこそ、リーダーにならなきゃいけない。大学の福祉学科出た子たちがホワイトカラーとなって、ソーシャルワークを伝えることが業界を変える一手になるような気がしますね。

 

 そうですね。全人的に見られてしまって、人手不足だから採用するというのは、多分採用される側も尊重されていない気持ちになってしまうおそれがあります。

 

 うん。やっぱり「人が足りない」「人手不足です」という一辺倒の採用じゃあ、その子たちは入社しないだろうな……。

 一方で、現在の中国の福祉はどんな状況ですか?

 

 日本が単身化が進むのに対して、中国は未だ三世代同居の世帯が一定数の割合を占めています。祖父母が定年退職後に孫の世話をすることが慣習となっていて、高齢者のいきがいにもなっているようです。一方で、都市化や経済の変化に伴い、核家族化や単身化が進む地域も増えつつあります。
また、中国では、コミュニティのことを「社区」と呼んでいます。社区に住んでいる高齢者が自発的に広場ダンスや太極拳などに参加しています。このような社区活動は、高齢者の生活の質を向上させ、孤立を防ぐのに役立ちます。さらに、活動のなかで、自然に困りごとなどの情報交換をしていますね。日本でいう昔懐かしい井戸端会議が機能しているんだと思います。

 

 中国には、公園に本格的な健康器具があったりと、健康意識が高い国ですからね。僕は中国行ったときに、度数の高い白酒(パイチュウ)をふるまってもらいました。みんな期待してこっちを見ているもんだから、一気に飲んで「おかわり!」って。結果喜んでもらえましたね(笑)。

 

 あはは! 今回、左理事長にお伝えしたかったんですが、過去のアスサキを見ても、外国人職員のことを「人財」と言ってらっしゃって、感激しました。労働者とか従事者と言われることが少なくないですから。今日お話をして確信したことでもあります。中国のことも、他の国をルーツにもつ人たちのことも、一人ひとりを個人としてフラットに見ていらっしゃるんだなと思って、嬉しかったです。

 

 僕は彼らのことを、日本の事業パートナーを探しに来ていると思っていますよ。学生さんが会社を興しても面白いですよね! 今度講演に行きますよ!

 

 ぜひ!(笑)

 

 

 

 

 

 

今回対談いただいた洪心璐先生の著書

『単身高齢者の居住支援』については、

こちらをご覧ください★