第10回
多様な人材が活躍できる介護業界になるために。熊谷大輔先生と
これからの社会福祉法人について意見を交わしました!
数値化できない人の魅力を評価し還元する? 長く続いていく職場環境になるには? 業務のマネジメントについて研究されている熊谷先生に、あれこれぶつけてみました。
〇対談相手
熊谷大輔さん
昭和女子大学・人間社会学部 福祉社会学科 専任講師。2024年度C1グランプリに審査員として登壇。
研究テーマに「外国人介護人材への重層的業務マネジメント体制の構築へ向けた実態調査」などがある。
これからの社会福祉法人に求められること
理事長(以下、左) 本日はよろしくお願いします。最初に、熊谷先生が大学で教鞭をとられている内容についておうかがいさせてください。
熊谷大輔さん(以下、熊) 社会福祉学科なので、社会福祉士などの専門職を養成する専攻で教えています。そのなかで、「ソーシャルワーク実習」で実際に高齢者施設に学生が実習に行くんです。戻ってくると、施設に就職したいという学生が何人かいますね。
左 社会福祉士を目指して学んでいる学生が、介護福祉の世界に興味をもつんですね。
熊 そうです。現場経験というのはなによりも印象に残るようです。そのなかでも特に「人」に魅せられ、ここで働きたい! と就職を決める学生が少なくない。それは、実習で指導をしてくださる実習指導者の方や現場の介護職員さんによるところが大きい。
左 なるほど。
熊 スキルや知識というものは後から変えられる。けれども人の性格や関わり方に好印象を持つことは、それぞれの価値観から生まれるものなので、変化させるのは非常に難しい。そういう「人」に魅力があるとしたときに、現在の福祉業界には評価の基準がない。例えば、学生が好感を持ち「この人の元で働きたい!」と、就職のきっかけをつくった職員さん自身はそのことを評価されておらず、本人が自身の魅力に気づいていないことも多々ありますよね。
左 そうですね。手に取るように想像ができます。
熊 そもそも法人をつくっているのは誰なのか? ということを考えてみても、そこで働く職員さんであったり、利用者さんたちですよね。この「人」たちに法人はどう還元していくのか? そこを考えるか考えないかで、社会福祉法人は今後淘汰されていくと思います。
左 なるほどね、社会福祉法人も新陳代謝していくと。
熊 はい。介護保険制度の根本に立ち戻ると、それぞれがサービスの内容を競い合うことにつながっていくんです。職員の方に対してのアプローチや、利用者の方へのサービスの質を高めること。それを千歳会さんはやってこられているんですね。
左 サービスひとつとっても、目の前のお客様に「喜んでもらう」ために考える、その“手間”をいかに惜しまないか。手間ひまかけて対応して、喜んでもらえたときの達成感を評価軸にしていきたいと考えています。
熊 それらを評価し、どう還元していますか?
左 シンプルに給料に還元しています。これまでの福祉の業界って「優しい」とか「思いやり」ってことばに頼り過ぎて、お金の話をしようものなら悪代官みたいに言われてきましたけど(笑)。僕らからすると、キャリアを積んでもらって給料を増やしてもらうっていうのが、一番わかりやすいメッセージになる。だから事業所を増やして、管理者のポストを増やしたいんです。キャリアアップを目指す職員がポストが空いていなくて、足踏みする状態にならないように。
熊 素晴らしい! 本質はそこですよね。頑張ったことを実感できるインセンティブ(報酬や表彰、人事評価)であるべきです。左さんの言うように、これはちっとも悪いことじゃありません。職員さんにとっても、やれることや考えを法人に示すトリガー(ひきがね、きっかけ)にもなり得ますから。
チームの中で「議論」は必要
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左 先生は現場での業務マネジメントのあり方を研究されているそうですが、チームの中でのよくある話を聞かせてください。
熊 はい。「集団維持機能」をテーマにしたとき、みんなで仲よく職場環境をよくしてやっていきましょうっていうチーム、一見よさそうに見えますが、実はよくないんです。これを目指してチームをつくると、議論しなくなってしまう。みんなが賛成していると、反対意見を言えなくなってしまったり、チームワークが崩れることを怖れて意見を飲み込んでしまったりする。
左 そこには、何が大切になってきますか?
熊 みんなが意見を言える環境をつくるということが大切になってきますね。「自分はこう思うんです」って言えて、たとえ自分とは異なる意見に対しても、許容できる環境ができているのが、最高の状態。
左 そこに求められるリーダー像はありますか?
熊 リーダーは本来孤独であるものだと思うんです。もっと言うと、リーダーは嫌われた方がいい。「あの人ちょっとな」っていう対抗心が実はチームが発展する大きな材料になることも。否定は聞きたくない気持ちはわかります。だけど、その否定に対して対抗できるような能力を持っているのが、マネジメントとしてリーダーになる素質のような気がしますね。
左 施設長たちに聞かせてやりたいです……!(笑)
熊 リーダーたちの孤独感を受け止める場所も必要になってきます。
左 施設長同士は、横のつながりがあります。けど、現場でも必要になってくるのか。
熊 デジタルでもリアルでもいいので、リーダーの孤独感を受け止めるための取材や窓口を可能な限り、多く準備しておくことも必要であると思います。
左 勉強になります! 今度先生の教え子のみなさんも千歳会に実習に来てもらえないでしょうか?
熊 千歳会さんでは、介護福祉士養成のみならず、社会福祉士の方も専門職として働いているとお聞きします。ぜひ受け入れていただきたいです。
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今回対談いただいた熊谷大輔先生が教鞭をとる
昭和女子大学の教員紹介ページについては
こちらをご覧ください★
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