介護をテーマに盛り込んだ映画を製作した
監督の犬童一利さんとの対談が実現!
〇対談相手
犬童一利さん
映画監督。長編デビュー作となる映画「カミングアウト」が東京や香港の国際レズビアン&ゲイ映画祭にて上映され話題となる。
2016年、映画「つむぐもの」で全国デビュー。2018年公開の映画「きらきら眼鏡」を手がける。プロデューサーとしても活躍。
映画撮影を通して、介護職の本質を知った
理事長(以下、左) 監督との出会いは、10年前。映画「つむぐもの」(2016年公開)の上映会からのご縁でしたね。
犬童監督(以下、犬童) そうですね。ご無沙汰しております。
左 「つむぐもの」って、和紙職人の高齢男性と韓国から来た型破りな介護職の女の子のお話ですよね。あのときに、どうして介護もテーマにした映画を撮ったんですか?
犬童 まず、友好関係にある福井県と韓国の映画を作ろうという話がありました。それから当時見た映画の影響もありますね。「愛、アムール」というフランス映画で、音楽家夫婦の妻が認知症になるというお話でした。映画のテーマに、介護を入れてみたいと思ったんです。
左 映画を通じて、介護という仕事をどうお感じになりましたか?
犬童 それこそ、映画を撮る前と後でイメージがガラッと変わりましたね。最初は、お年寄りの食事やお風呂などの生活全般のサポートをする仕事だと思っていました。が、介護の仕事は「その方がさいごまで自分らしく生きることを支える」が本質にあることがわかりました。
左 おっしゃる通りですね。介護との出合いの中で、印象に残っているエピソードはありますか?
犬童 長崎市にある法人で聞いた話ですが、入居されているおばあちゃんの夢を叶える、というものです。その方の夢はというと、「父親のお墓参りに行く」というもの。しかも、五島列島まで行く、と言うんです。長崎市から1時間船に乗ってお墓参りに行く、と。実現のためには、1時間船に乗る必要があり、座位を保つリハビリが行われたそうです。日々の努力を重ねて、ついに夢を叶えることができたときには、認知症の症状のあるおばあちゃんが、思い出話をたくさんしてくれた、というエピソードを聞いてすごく感動しました。
左 夢を叶えるって、ご本人だけでなくて支える側もやりがいにつながるんですよね。私も、仲間と夢を語り合うことを大切にしています。夢中になれる仕事だということを、どんどん外部にアピールしてもらいたいです。
ケアを知るには、まずそばにいる人を知ろう
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犬童 僕は「つむぐもの」ができたときに、1年以上DVD化せずに、ずっと上映会で全国をまわっていました。
左 そのおかげで、私も監督に出会えました。
犬童 そうですね。左さんのように、全国の社会福祉法人が手を挙げてくれて、さまざまなところで上映をさせてもらいました。そこで地域に住む方々と、介護職の方々の交流の場ができたらいいなと考えたんです。これまで介護と関わる機会のなかった人たちは、福祉施設の中のことを知る機会がないですから。
左 顔見知りでも、関係性ができるっていうのは大切なことですよね。それぞれ別の事業所で働く若手同士の出会いの場にも、なったのでは? とお話を聞いて思いました。
犬童 そうですね。ケアの仕事に対する不安や悩みって、いきなり上司にはぶつけにくいですから。そういう意味でも、おなじ志をもつ「友だち」ができるきっかけをつくれたらいいな、とは思っていましたね。
それに、上映会でまわっていたときに、介護職の方々の印象的な言葉が残っています。
「地域の高齢者を支えるということは、その地域の歴史や文化を守ることにもつながる」
「医療は、命の長さを長くすることができる。介護は、命の太さを太くすることができる」
介護の仕事とは、目の前の人の夢を叶える仕事なんだなと実感しました。
外から客観的に見てもらうことの重要性
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左 そうやって、介護職のとりくみを外部の人たちに「きみの仕事、素晴らしい!」と褒めてもらえることって、とても大事なことだと思うんです。介護の世界で起こっている日々のドラマを、たくさんの人たちに知ってもらって、仲間を増やしていくことが我々の命題だと思っています。業界内では、国や行政がサポートするしくみがあって、メッセージ性も高くて入って来やすいんですが、外の人には伝わりづらい。監督のようなクリエイターの方々に、介護の世界を表現してもらうことが不可欠になってきていると感じています。
犬童 介護と地域の物語って、切っても切り離せないもの。「介護」という点だけでテーマを作るというよりも、地域の歴史やそこに暮らす人々のアイデンティティなどのより広い視点で考えられるといいんじゃないかなと思います。そのためにも、人と人のつながりは重要ですよね。「介護」の点をつなげて線にする、さらに面にしていくイメージで。
左 そうですよね。法人のよさとか、給料っていうのは入った後の話。その前に、どんな世界なのかを知ってもらって共感を生むような枠組みが必要なんですよね。監督に新しい映画をつくってもらえるように、わたしも準備したいと思います(笑)。
今回対談いただいた犬童一利監督作品
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